西は地中海、東はヨルダン川と死海に挟まれた細長い地域に、
現在のイスラエルと、パレスチナがある。
まず、「イスラエル」という国家があり、
イスラエルに隣接した濃い色の二箇所が、「パレスチナ自治区」。
左側の、地中海に面した小さな地域が、ガザ地区。
イスラエルによる軍事封鎖のため、現在ガザへ入ることは出来ない。
けれど右側のヨルダン川西岸地区へは、旅行者も入域可能。
今回私が訪れたのも、ヨルダン川西岸地区の数都市だった。
*
エルサレムから、ヨルダン川西岸地区のベツレヘムまでは、
バスで1時間もかからなかったと思う。
ベツレヘムは、旅行者の姿もちらほらと見られる。
旅行者に有名なのは、イエスの生誕教会と、
イギリスを拠点とする匿名のストリートアーティスト、
「バンクシー」をはじめとした、ウォールアートの数々。
今回私は生誕教会へは行かなかったけれど、
分離壁に沿って、街をあちこち歩いてまわった。
和平を願うメッセージ、政治や社会を風刺したようなアート、
壁に込められた、無数の祈りを、ゆっくりとみつめて。
2018年6月1日、ガザの「帰還の行進」デモで、
パレスチナの医療救援団体のボランティア女性看護師
ラザン・ナジャルさん(当時21歳)が、
イスラエル軍の銃撃を受けて死亡した。
フェンスの前で倒れている人を助けようとして、
医療関係者であることを示す白いベストを着て、
無武装であることを示すためにイスラエル兵に向けて両手を挙げたけれど、
背中から撃たれて亡くなったという。
彼女の愛くるしい笑顔の写真はSNSを通して世界中に拡散された。
私自身も、この事件をtwitterで知った。
ラザンさんの姿は、ベツレヘムの分離壁の中でも
最も多くの人が訪れる場所に、大きく描かれていた。
パレスチナの自由がないかぎり、
私たちも完全な自由ではないことを、よく知っている。
−ネルソンマンデラ
親イスラエルの、トランプ政権。
握手する相手はもちろん・・・
裏でがっちり手を握り、パレスチナの自由を認めない、
アメリカとイスラエルを皮肉った巨大絵。
ベツレヘムの街中には、分離壁以外にも、
和平を願うさまざまなアートが、散りばめられている。
何の変哲もない、ガソリンスタンドの裏に、
ひっそりと描かれていた、花束を投げる男性。バンクシー作。
知らなければ気づかないような場所にそれはあった。
紛争といえば、投げられるものは手榴弾などの武器を想像する。
パレスチナ人は、占領への抵抗として石を投げたけれど、
男性の右手に握られているのは、平和を願う、花束。
こちらも有名な絵、バンクシー作。
平和の象徴であり自由に空を飛び回るはずのハトが、
防弾チョッキを着て、今にも狙撃されようとしている。
自由を奪われ、いつ命を狙われてもおかしくない、
パレスチナの現状を物語っている絵。
*
分離壁の建設は2002年より、現在まで続いている。
これは、パレスチナ人の住まう地域を囲うように作られた壁のことで、
高さは8m(ベルリンの壁より高い)、全長は700kmにも及ぶ。
イスラエルはこの壁について「テロを防ぐため」と説明している。
しかし実際には、決められたグリーンラインという境界よりも、
大幅にパレスチナ側に切り込むようにして建てられている。
2004年に、国際司法裁判所により、「国際法上違反」とされ、
分離壁の撤去とパレスチナ人への補償を求める勧告をされたにもかかわらず、
「テロ対策」を理由に反発し、イスラエル政府は建設を続けてきた。
けれど、これが、安全保障のためのフェンスという説明で済むのか?
パレスチナ人たちの間で、
「アパルトヘイトウォール(人種差別の壁)」と呼ばれるこの分離壁は、
パレスチナの村と村を、家と農地を、家と水資源を分断し、
通勤や通学、病院通いなど、生活を困難にさせるよう作られている。
パレスチナ自治区という名は一応はあるけれど、
電力や水資源などライフラインも多くをイスラエル政府に握られている地域が多く、
不平等な料金請求など、占領の現実は見えにくいところでも存在している。
:
分離壁のイスラエル側へと続く検問所の近くで、
ベツレヘムの難民キャンプに住むという40代の男性に会った。
「聖地エルサレムに、もう一度行きたいよ」
そう、言っていた。
ベツレヘムに暮らす彼は、2002年以降、
この分離壁の外へ出ることはできなくなってしまった。
イスラエルと、イスラエルが占領するパレスチナの東エルサレム、
ヨルダン川西岸地区、ガザ地区、それぞれの地域に住む人々は、
それぞれ異なったIDカード(身分証明書)で分類されている。
IDカードは5種類。
①イスラエル国籍のユダヤ人
②イスラエル国籍のパレスチナ人(パレスチナ自治区以外に住む)
③東エルサレムのパレスチナ人(エルサレム周辺に住む)
④ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人
⑤ガザ地区のパレスチナ人
①のIDを持つ人は最も優遇され、②→⑤へいくごとに、
社会サービス、居住権、移動、検問所でのチェックなど、
自由は奪われ不便な生活を強いられなければならない。
ベツレヘムに住む人々は④に該当していて、
彼らは西岸地区の中の40%にしか住むことが許されず、
ここから出てイスラエルに行くには
特別な許可証や大金が必要になるらしく、
一般の人にとって、現実にはほぼ不可能に近い、らしい。
:
パレスチナ自治区に住む住人を少しずつ囲い込み、
その生活基盤を破壊してこれ以上住めなくさせる。
生活ができなくなった住民は、
別の土地、国に自主的に退去せざるを得なくなって行く・・・
そうしてパレスチナの民族浄化をすすめ
圧倒的ユダヤ人多数のユダヤ国家を作ること
それが、イスラエル政府の狙いだと言われる。
それでも、パレスチナの地に住み続ける、多くの民がいる。
どれだけ不便で不公平な生活を強いられようとも、
民族浄化の波に抗し、そこに暮らし続けてゆくことこそが、
私の会った、パレスチナの人たちの、
静かなる「抵抗」であるように思えた。
***
■エルサレムからベツレヘムへ
ダマスカス門近くのバスステーション、
21番ターミナルより出発の大型バスに乗車。
時間は1時間弱。料金は6.8シェケル。
途中の検問所は、ノーチェックで通過できる。
ただしパレスチナ自治区→イスラエルのの場合は、
旅行者も検問所でのチェックを受けねばならない。
■ベツレヘムで泊まった宿
Habibi Hostel
女性用ドミあり とても清潔 wifi高速
朝食付き(9:00にゲストみんな揃って食べる)
バス・トイレは2つ キッチン使用可
共有スペースの居心地good◎
料金は55シェケル
ベツレヘムやヘブロンへのツアー代行もしている
分離壁までは、宿から歩いて20分くらい。
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