2019-12-28

ブルカの世界【パキスタン・ペシャーワル】






それはとても異様な光景だった


40度にも届きそうなほど
茹るような暑さのなか
土色のブルカを全身に纏った女たちが
ペシャーワルの街の隅を
控えめに歩いている

この地域一帯で着られる独特の衣は
体も顔もすべてを覆ってしまうので
外側からは体のシルエットのみが
何となくわかるくらいなものである

目の部分だけが網の目状になっていて
内側からはなんとか外が見える
そういうつくりになっている

この姿を強要されることが
この社会で生きるということなのだろうか

初めてこの姿に出会った時
とても衝撃だった








それはなんとも不思議な感覚だった


女性の衣装を扱う店で
土地の女性が外出時に着るブルカを見つけ
着させてもらった

ブルカは結構重くて
頭にずっしりとその重みがかかり
視界は悪く限られていたし
何よりも暑かった

でもどこか
不思議な安心感があった

この土地では
だいたい半分くらいの女性が
このブルカを身につけている
ちなみに後の半分は
目だけ出すスタイル











ブルカの中の
女たちの素顔に出会った


彼女たちは明るくて
強くて逞しかった
そして何よりも
慎ましくいることの美を
知っていた


子ども以外の女性が
ブルカをとった姿を異性に見せるのは
愛する人の
親族や家族の間だけ
女性の美しさは
やたらめったら外に出す物ではない


出会った女たちの姿からは
抑圧された風には感じられなかった
たくさんの子どもを産み育て
家の中のいっさいを切り盛りする彼女たちの姿は
生き生きとしていたし
私の生きてきた社会よりもずっと
女性が大切にされている社会であるように
思えた


寝起きのままブルカをかぶれば
化粧をする必要もないし
外見など気にすることなく
すぐに外出できる
日焼け止めなど必要ないし
着ていく服にあれこれ頭を悩ませたり
そういう面倒なことを
する必要がいっさいなくなる


ある意味 楽である



ブルカは極端な例だけど
イスラーム女性は案外みんな
自らすすんでベールを被っている


包んである贈りものと
そうでない贈りものがあったとしたら
どちらの方が特別な感じがする?


高価な宝石は、そのへんに転がしておかない
女性の美しさは、隠すことでさらに価値が増す
本当の意味で、女性として尊ばれるために




***



ブルカ。
これは、一方から見える窓


中にいる女性は観察者で
すきなだけ 見たいものをじっくりと
そして
外にいる見知らぬ男たちの
好奇の視線から守られる
(女性をジロジロ見ない
というマナーはあるけれど)


この社会では これはお守りのようなものだ




ブルカは 安心の拠り所でもある
そうなのかもしれない と思った









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