それはとても異様な光景だった
40度にも届きそうなほど
茹るような暑さのなか
土色のブルカを全身に纏った女たちが
ペシャーワルの街の隅を
控えめに歩いている
この地域一帯で着られる独特の衣は
体も顔もすべてを覆ってしまうので
外側からは体のシルエットのみが
何となくわかるくらいなものである
目の部分だけが網の目状になっていて
内側からはなんとか外が見える
そういうつくりになっている
この姿を強要されることが
この社会で生きるということなのだろうか
と
初めてこの姿に出会った時
とても衝撃だった
*
それはなんとも不思議な感覚だった
女性の衣装を扱う店で
土地の女性が外出時に着るブルカを見つけ
着させてもらった
ブルカは結構重くて
頭にずっしりとその重みがかかり
視界は悪く限られていたし
何よりも暑かった
でもどこか
不思議な安心感があった
この土地では
だいたい半分くらいの女性が
このブルカを身につけている
ちなみに後の半分は
目だけ出すスタイル
*
ブルカの中の
女たちの素顔に出会った
彼女たちは明るくて
強くて逞しかった
そして何よりも
慎ましくいることの美を
知っていた
子ども以外の女性が
ブルカをとった姿を異性に見せるのは
愛する人の
親族や家族の間だけ
女性の美しさは
やたらめったら外に出す物ではない
出会った女たちの姿からは
抑圧された風には感じられなかった
たくさんの子どもを産み育て
家の中のいっさいを切り盛りする彼女たちの姿は
生き生きとしていたし
私の生きてきた社会よりもずっと
女性が大切にされている社会であるように
思えた
寝起きのままブルカをかぶれば
化粧をする必要もないし
外見など気にすることなく
すぐに外出できる
日焼け止めなど必要ないし
着ていく服にあれこれ頭を悩ませたり
そういう面倒なことを
する必要がいっさいなくなる
ある意味 楽である
ブルカは極端な例だけど
イスラーム女性は案外みんな
自らすすんでベールを被っている
包んである贈りものと
そうでない贈りものがあったとしたら
どちらの方が特別な感じがする?
高価な宝石は、そのへんに転がしておかない
女性の美しさは、隠すことでさらに価値が増す
本当の意味で、女性として尊ばれるために
***
ブルカ。
これは、一方から見える窓
中にいる女性は観察者で
すきなだけ 見たいものをじっくりと
そして
外にいる見知らぬ男たちの
好奇の視線から守られる
(女性をジロジロ見ない
というマナーはあるけれど)
この社会では これはお守りのようなものだ
ブルカは 安心の拠り所でもある
そうなのかもしれない と思った
0 件のコメント:
コメントを投稿