2019-01-17

ブルカをまとった女性教師が悪と戦う!パキスタンのアニメ「ブルカ・アベンジャー」

画像元:https://www.pbs.org/newshour/tag/burka-avenger

今日は、パキスタンで話題となったアニメ『ブルカ・アベンジャー(Burka Avenger)』について書きます。




ブルカアベンジャーの紹介

「ブルカ・アベンジャー」は、全4シーズン・52話からなるパキスタンの人気テレビアニメです。
2013年〜2016年までパキスタン国内で放送されて話題となり、アニメ関係の国際的な賞も数多く受賞しています。お隣アフガニスタンや、イスラム教徒の多いインドやインドネシアなどでも放送され、話題となりました。
「ブルカ」とよばれるイスラム女性の着衣を身にまとった主人公の女性教師が、平和や女性の教育の権利を守るため、社会の悪と戦うお話です。

こちらは、英語版の紹介ビデオです。

アニメの主人公は、パキスタン女性の『ジヤ』。
普段は女子学校の教師をしていますが、子どもたちや町の住民に危機が迫ったときには『ブルカ・アベンジャー』として、ブルカ姿になって登場。(『◯◯レンジャー』みたいな、戦隊ヒーローのような感じ)

画像元:https://www.pbs.org/newshour/tag/burka-avenger

ブルカアベンジャーの主な悪役は、腐敗した政治家とタリバンの司令官のようなあごひげを生やした邪悪な魔術師です。どちらの敵対者も、子供たちの教育を受ける機会を奪おうとする現実世界の勢力を象徴しています。
ブルカアベンジャーは、パンチもしなければ殴りもしないし、蹴りもしません。誰も撃ちません。忍者のようなアクロバティックな動きで敵に立ち向かい、ペンや本を盾にして社会の悪に立ち向かってゆきます。
女性の教育問題から始まり、児童労働、少数民族・宗教差別、電気の問題、環境汚染、ポリオワクチン、交通ルールなど、各ストーリーで取り上げられている話題はパキスタンで現実に起きている社会問題ばかりです。

製作者はパキスタンの人気歌手!物語に込められた想い。



アニメの制作をしたのは、パキスタンの人気歌手でもあるアーロン・ハルーン・ラシード氏。もともと、歌の中でも汚職や宗教間の平和などの社会問題に触れていたようです。
ハルーン氏は、「女子校がイスラム過激派によって閉鎖されるニュースをたくさん読んだ。そこで、女子校を守る主人公を思い付いた」と番組制作のきっかけを説明しています。その上で「彼女を反イスラムとして描いたわけではない。彼女はブルカを着たイスラム教徒だ」とも述べています。

『ペンは他のどんな武器よりも強力』

ハルーン氏は、不十分な教育や社会制度が社会に不安や不満をもたらし、過激思想が入り込む隙を残していると考えます。
そのためブルカアベンジャーのモットーは、「正義、平和、そして万人のための教育」です。
普段は触れにくいような社会問題も、アニメという媒体を通して笑いやアクションを交えながらわかりやすく人々に伝える。問題について考えるきっかけを与え、人々の思いや行動を変える手助けをすることで社会を変革させて行く。「ブルカアベンジャー」は、そんなハルーン氏の信念と希望を託した物語です。

物語の舞台、モデルについての考察


画像元:https://mvslim.com/meet-burka-avenger-changing-world-covered-powerful/

「スワート」と「ハルワプール」

物語の舞台は、パキスタンの架空の都市「ハルワプール」。
実在する都市ではありませんが、個人的にはパキスタン北西部の州に位置するスワートとリンクする部分が多いように思います。
私の印象ですが、ハルワプール全体の山に囲まれた美しい風景は、スワートを訪問した時のそれを思い起こさせました。また、街並みはスワートと同じ州で文化もよく似たぺシャワールのオールドタウンを思わせます。
登場人物が着ているパキスタンの国民服シャルワールカミーズや、パキスタンの庶民的な乗り物であるカラフルにデコレーションされたオートリクシャーのような乗り物が出てきたり・・・パキスタンの文化や環境がよく反映されたアニメーションです。

「マララ」と「ジヤ」

ノーベル平和賞受賞で世界的に有名になったマララ・ユスフザイさんは、パキスタン北西部の町、スワートの出身です。
2007年〜2012年頃、スワートは約5年間タリバンに支配されていました。この時スワートではタリバンによって女子への教育が禁止され、女子学校が次々と閉鎖・破壊されてゆきました。
そんなスワートで『女性が教育を受ける権利』のために立ち上がり、声を上げ続けたマララさんと、ブルカアベンジャーの主人公ジヤが重なります。マララさんはタリバンから目をつけられており、2012年にはタリバンによって銃撃されるも奇跡的に一命を取り留めます。そしてこの事件をきっかけに、全世界から注目される存在となり、その後ノーベル平和賞を受賞しました。
彼女の自伝である著書には、タリバン支配下のスワートのことが詳細に描かれているのですが、そこで起きていたこととブルカアベンジャーのアニメの内容がとてもよく似ているなと思いました。



製作者のハルーン氏は、ニュースでそうした地域の実情を知ってアニメの制作を行ったのではないかと思いますが、ブルカアベンジャーの制作は、銃撃事件が起きる前から始めており、事件が起きるまでマララさんについては聞いたことがなかったようです。
事件後、アニメの重要性を認識して急ピッチで制作を進めたようです。

タリバンに撃たれた少女の故郷へ【パキスタン・スワート】
こちらは私が実際にスワートを訪れたときの記録と、マララさんを紹介した記事です。

ブルカ・アベンジャーはYouTubeで視聴できます!

ブルカ・アベンジャーのアニメは、現在YouTubeでも見ることが出来ます。
ウルドゥー語音声のアニメですが、とてもわかりやすい英語字幕付きなので、ウルドゥー語が分からなくても楽しめます。
各話20分程度のショートアニメになります。
以下に紹介するのは、私個人的に印象深かった回です。
ぜひ、皆さんもご覧になってみてください。

▽女子学校の閉鎖


女子教育を禁止しようと企む悪の魔術師ババ・バンドゥークと金に汚い腐敗した政治家パデロ・パジェロ、それに対抗するブルカアベンジャーの話。
パキスタンのスワートでタリバンが支配地域を広げていた頃、スワートでは女子学校が次々と閉鎖されて行きました。そんなスワートで女子が教育を受ける権利を訴えたマララ・ユスフザイさんとブルカアベンジャー、そして悪の魔術師とタリバンが重なります。
このストーリーの最後には、敵に立ち向かうための最大の武器は教育であること、男の子であろうと女の子であろうと、教育を受けることは全ての子どもが持つ権利であることが教えられます。

▽巨大スリングショット(爆弾のようなもの)との戦い


悪の魔術師ババ・バンドゥークは、彼の過激派組織に入る男の子を募集します。 彼は子供たちがヒーローのようになれると約束しますが、バババンドゥクの目的は、彼らを使って巨大なスリングショットタンク(爆発物)を作ること、そして男の子たちを訓練し、戦闘に使うことでした・・・。
親を亡くした子どもや貧しく苦しい生活を強いられている子どもたちに歩み寄り、洗脳して戦闘員として育てるのは過激派組織の手口です。パキスタンやアフガニスタン、またシリアでもそうした手口により多くの子どもたちがタリバンやイスラム国の戦闘員となりました。
このストーリーの最後には、自らの目的の達成のために暴力を手段とするような組織は、私たちの社会に悪い影響を及ぼすこと、暴力は何においても解決策にはならないこと、決して他人に対して暴力を働いてはならないことが教えられます。

▽差別との戦い


悪の魔術師ババ・バンドゥークや、ハルワプールの腐敗した政治家パデロ・パジェロたちによって、町の住民が人種や宗教などの違いにより色分けされたバッジのようなもので区別されます。少数派の人たちは多数派の人から迫害され、町を追われてしまいます・・・
他民族国家であるパキスタン、そしてパキスタン以外にも、世界では人種、宗教、言語、文化、様々な『違い』から差別が起き、そこから数多くの争いが生み出されています。なんだかこれまでシリアで起きてきたことにも重なりました。
このストーリーの最後には、人は言葉や人種、宗教で分けられるべきではないこと、みんな同じ人間であることが教えられます。

▽ポリオとの戦い


悪の魔術師ババ・バンドゥークは、ポリオの保健医療従事者を誘拐し、ポリオのワクチンを盗み隠します。 危険なポリオウイルスの脅威は町中に広がっており、子どもたちが危険にさらされてしまいます。
世界保健機関(WHO)によると、パキスタンは隣国のアフガニスタンと並ぶポリオ(小児麻痺)流行の最大被害国となっています。パキスタンではポリオワクチンの予防接種に当たる医療従事者を対象にしたテロ攻撃が、実際に数多く発生しています。過激派組織がポリオワクチンの接種作業に反発する理由は2011年に米海軍特殊部隊がパキスタン北部アボタバードの潜伏先を襲い、アルカイダ最高指導者のオサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことに根差すとの指摘がある。米国は当時、同容疑者の存在を確認するため同ワクチン普及を名目に隠れ家を調べたことがあったとされています。また、『ポリオワクチンを接種すると不妊になる』という噂を信じる人がいるのも理由の一つであるようです。そんなポリオの問題に焦点を当てたのが、こちらのストーリー。
このストーリーの最後には、ポリオはかかってしまうと治すことのできない病気であること、そのために予防が重要であること、予防接種をしていない全ての子どもにはポリオ感染の危険性があること、たった2滴の点眼でポリオの感染が防げることが教えられます。

▽クリケットマッチ


パキスタンの国技クリケットで、ハルワプールの住民とブルカアベンジャーが、ババ・バンドゥークら悪の軍団と直接対決!
バババンドゥークは、賄賂やドーピングのような卑怯な手を使ってきますが・・・
このストーリーの最後には、スポーツや人生の全てにおいて誠実でいることの大切さが教えられる。また、どんな窮地に直面した時も、心の平安を保つことの大切さが教えられる。


どのストーリーも、アクションあり笑いあり冒険あり、そして社会への強いメッセージが込められています。
ブルカアベンジャーは今後、映画化・コミック化される予定もあるようです。
パキスタンや周辺の国に止まらず、世界中に広まってゆけば良いなと思います。
いつか、日本でも・・・。
また、パキスタンに興味がある人、渡航を考えている人は、パキスタンを知るための良い教材になると思います。


ブルカアベンジャーの公式ホームページはこちら。


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