カリマバードでは時期を逃してしまったけれど
少しだけ標高の高いここパスー村では、
薄ピンクの花を両手いっぱいに咲かせた可愛らしい杏の木々に会えた。
パスー村は、上部フンザ(ゴジャール地方)に位置する小さな農村。
四方を峻険な山々に囲まれた谷にある。
カラコルムハイウエイ上と、比較的にアクセスしやすい場所にあるけれど
観光客は少なくて、カリマバードよりも牧歌的な雰囲気。
空気が美味しくて、景色も息を呑むくらいに素晴らしい。
ピンクの花々に彩られた春のパスー村は、まるで天国。地上の楽園。
パスー村には、タジキスタンやアフガニスタンのワハーンと同様
「ワヒ語」を話す「ワヒ族」が多く暮らしている。
(ちなみに「ワハーン」は「ワヒ族の土地」の意。)
ワヒ族は、イスラム教シーア派イスマイリーを信仰している。
フンザ人と同様、宗教的に寛容な地域であり、
女性でもこうして写真を撮らせてくれたりする。
パスーでは村人の多くが、半農半牧生活を営んでいる。
冬の間は村で暮らし、
夏になるといくつかの家族は遊牧に適した高地の夏小屋集落に
家畜と共に移動し遊牧生活を送るのだという。
彼らは畑と家畜と共に暮らす定住型ノマドと言えるだろう。
夏小屋集落(バトゥラ氷河の先)への移動は毎年6月末頃。
ユンズビンまでの仮移動は5月末頃になると聞いた。
夏にパスーに行けば、夏小屋集落を訪問して
ワヒ族の放牧生活を見ることが出来ることがわかった。
また、行きたい場所が増えてしまった。
パキスタンを旅していると、旅するごとに、
芋づる式に行きたい場所が増えていく。
何回尋ねても、見尽くしてしまうことのできない国だ。
冬の寒さは厳しく生きるのが容易な土地ではないが、
夏の間はフルーツや農作物が豊富に採れる。
食事の味付けは、油やスパイスを少なめにして
素材の味が生かされたシンプルな味。
シンプルな料理をたくさん食べて、よく体を動かしているからなのか
パスーの人たちはみんな長寿なのだという。
泊まっていた宿のおじいちゃんアクバルは
「パスーの平均寿命は100歳くらいじゃないかな」
と言っていた。
え?と言葉を疑った。正確に年齢を数えているかもわからないけど
実際にアクバルのおじさんは110歳まで生きたそうだ。
90歳を超える人はざらにいるらしい。
アクバルは、食事について
「シンプルで新鮮なものを食べるのが一番だ」と言っていた。
そして私が夕食のチャパティを食べきれずに「明日の朝食にする」というと
「食べ物も太陽も全てはアッラーがおつくりになったもの。
今日の食べ物を明日まで保存しておくのは良くない。
明日は明日の食べ物を、アッラーが与えてくださる。
前の日の食べ物を取っておいたのでは、アッラーは新しい食べ物を与えてくださらない。」
そんなことも教えてくれた。
*
よく晴れた日の昼下がり。
パスーの村をカメラ片手にお散歩。
村で一軒だけ開いていた、小さなお店。
村にはウシにヤギに羊に・・・家畜がいっぱい。
歩いてると、ものすごい見つめられる。
この日は学校がお休みだったので
村では子どもたちがたくさん遊んでた。
初めは恥ずかしそうにしていた子たちも
手を振ったりこちらから挨拶すると、満面の笑みで答えてくれる。
みんな、なんの曇りも見えない、澄んだ瞳をしていた。
村中をゆらゆらと歩き回っていると、
畑仕事をしていたビビ・ペリーというお母さんに声をかけられ
「チャイピュ?(チャイ飲んで行かない?)」と、家に招いてくれた。
綺麗に整理整頓された、大きな家。
ワヒ族の伝統的な家のつくりをしていた。
真ん中に薪ストーブがあって、それを囲うようにして寛ぎスペースがある。
ご飯を作って食べるのも、居間も寝室も同じ場所。
天井の窓からは太陽の暖かな光が差し込み、
晴れた昼間だと部屋の中は電気がなくても十分に明るい。
チャイを淹れ、パラタを揚げてくれた。
ビビペリーには、5人の娘がいるらしいのだが
私のことを「チェ・ベティ(6番目の娘)」と言ってくれた。
外国からふらっとやってきたどこの骨ともわからない私に
会ってすぐにこんなにも親切にしてくれて、
こんなにも暖かく、家族のように接してくれたビビペリー。
これだから、また戻ってきたくなってしまうのだ。
ここパスーに。この国に。
*
パスーの村を一望できる高台に登った。
その高台にあったのは、パスーの人々のお墓。
不謹慎かもしれないけど、
こんなにもお墓が美しいと思ったのは初めてだった。
パスー村と、パスーを象徴する山・トポップダンなど壮大な山々を見渡せて、
心地良い風を頰に感じられる美しい場所。
こんな場所に眠っていたら、
ほんとうに地球に還ってゆけそうな気がする。
日本みたいに便利なものはない。
でも、ここには雄大な自然があり、自然のリズムに合わせて素朴な暮らしを営む人々がいる。
自然の恵みも、人々の心も驚くほど温かい。
「なんにもないけど全てがある。」
パスーは、そんな場所。
2018.4
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