2018-02-09
晩秋と初冬の季節に。
秋と冬が静かに混じり合う季節。
10月半ばに帰国した私は、冬が深まるまでの少しの間、
長野の山奥にある温泉旅館で働いていた。
周りにはおんなじように老舗の旅館がいくつか並んでいるくらいで
最寄りの駅やコンビニに行くには片道歩いて40分、といったぐあい。
でも、自然が近くに感じられる環境は、それなりに居心地が良かった。
それに、ここでの生活は、自分の心と体によくフィットしていたと思う。
紅や黄金色に紅葉した木々を、部屋の窓からいつでも眺められたし、
夜はシンと静かな環境で眠ることができた。
嫌なことがあっても、仕事終わりに温泉に浸かれば心の芯まで癒されて
「明日も頑張ろう」、そう、思うことができた。
比較的規則正しい生活を送れたことも、
適度に体を動かしていられるのも、良かったのだと思う。
旅の中で蓄積された、目に見えない疲れだとか、
いつの間にか溜まってしまっていた毒素も、
一気に洗い流されて行くような感じがして、気持ちが良かった。
:
ひとつ、よかったことがあった。
それは、長らく続いた胃の不調の、原因がわかったこと。
ある日、最寄り駅から数駅のところにある、胃腸クリニックに行った。
常備薬が切れそうだったので、薬をもらいに行ったのだけど
そこのお医者さんはとても丁寧に話を聞いて診察をしてくれるところで
検査もしてもらえることになり、その結果、
ピロリ菌に感染していることがわかった。
(ピロリは除去をしないとずっと胃の中で生き続けて、胃炎や胃潰瘍、胃がんの原因になったりする)
ピロリ菌であることがわかって喜ぶ人なんてなかなかいないと思うけど、
私の場合、「救われた、やっと」、そう思った。
もともと、私の場合胃の不調の原因がよくわからなかったので
治療をするにも、生活習慣も食生活も、何を改善したらいいのかもわからないままだった。
西洋の薬も漢方もハーブ、いろんな種類のものを試して、
食事量を減らしてみたり、食事内容を見直したり、
軽い運動をしたり、ヨガをしたり、ツボ押しをしてみたり…
それでも何をしても良くならず、
ずっとずっと頭を悩ませていた胃の不調の大元の原因がようやくわかり、
心にかかっていた灰色のずーんと重い雲が
ぱーっと晴れて、太陽の光が差し込んで青空が広がって行くような気持ちだった。
ピロリ菌は大人になってからかかることはほぼないので、
おそらく免疫力の弱い小さな子どもの時に、感染したのだろうと思う。
長年感染状態にあって、すっかり萎縮してしまった胃の具合はすぐには良くならないけど
それでも、原因が取り除かれれば、時間をかけて、
少しずつ元の状態へ戻って行けるかもしれない。
ひとまず、原因がわかってほんとうに良かった。
胃が重く感じるようになってからずいぶんと長い間
いろいろと心悩ませたけれど、
今思えば悪いことばかりではなかったかな、とも思う。
20代前半までは、若さのままに心のまま
やりたいことをやりたいだけ、食べたいものも食べたいだけ、
そうやって、欲するままに体を使い、十分な休憩も与えてあげられず
少し乱暴に体を使い続けていたような気がするけれど
“自分の体と対話する”ということができるようになった。
どれだけ休憩が必要で、どんなことをするといいのか、
食べ物は何を、どんな風に摂ると調子が良くなるのか、
どういった場所で、どんな生活をするのが合っているのか。
そういう生活のいろいろなことを、自分の体の声を聞きながら
少しずつ調整して、なるべく良い状態に持って行く
ということを覚えられたと思う。
これから先、多分、何十年と、付き合って行く自分の体。
まだまだ先は長いから、急にオーバーヒートしてしまわないように
ちゃんと体の声にも耳を傾けて
しっかりメンテナンスしてあげなきゃ、と思う。
そんな風に思うきっかけとなったのがピロリちゃんだと思えば
そこまで悪いやつな気はしなくなる。
きっと、そういったことを考えるきっかけとして、
神様が用意していたものなのかもしれない。
:
自分の体だ。
守ってやれるのは自分だけ。
大切に、大切にしていきたい。
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