2018-02-02

街角の小さな茶屋で【アゼルバイジャン・シェキ】



ずっと、気になっていた場所があった。

観光客向けの土産物屋やカフェが多く立ち並ぶ
シェキのキャラバンサライのすぐ近くにそれはあって、
はじめに通りがかった時からなぜだか心惹かれていた。




それは、古ぼけて年季の入った建物の、小さな茶屋。
お店の外のベンチに腰掛けているのは、地元のおじいちゃん達。
ゆったりとチャイを飲みながら、話に花を咲かせている感じだった。
きっと、ローカルの社交の場なのだろう。


観光客はおろか、女のひとも若いひともいないので
最初にここに入る時は少しだけ緊張したのだけど、
茶屋に入って空いていた席にちょこんと座り
彼らと目を合わせてみると、みんな顔をくしゃっとして笑いかけてくれた。



お店のおじちゃんにチャイを一杯お願いすると
茶葉たっぷりの紅茶と、色のついた氷砂糖を出してくれた。




どうやら、茶葉をたっぷり煮出した濃いめのチャイ(紅茶)を
氷砂糖と一緒に口に含んでいただくのが、ここのスタイルらしい。


しばらくして、近くでチャイを飲んでいたおじちゃんが
お店から出て行ったと思ったらすぐに何かお菓子の入った袋を持って戻ってきて
柔らかい笑顔で、その袋いっぱいに詰まったお菓子を私にプレゼントしてくれた。


おじちゃんは、その茶屋のすぐ脇にある、お菓子屋さんのオーナーだった。
お店の前を通りかかる度に、にこっと微笑んで
挨拶をしてくれていた、いかにも人の良さそうなおじちゃんだった。


このお菓子、名前は忘れてしまったけれど、
シェキではとても有名なお菓子らしい。
見た目と食感はチュロスのような感じ。
(ただし、とんでもなく甘い。)
「チャイと一緒に食べるとすごく上手いんだ」
私はおじちゃんがすすめてくれたとおりに、
チャイを飲みながら、ゆっくりとそれをいただいた。
チャイの苦味と渋み、そしてチュロスの甘みがちょうどいいあんばいに口の中でとろけあって、
それはそれは、美味しかった!


すっかり身も心もポカポカに温まって、
おじちゃん達にお礼を言い、茶屋を後にした。










アゼルバイジャンは、この旅最後の目的地だった。
ひとまず、今回の旅はこれでおしまい。
2日後には、日本へ帰る。



パキスタン、新疆ウイグル自治区、キルギス、タジキスタン、
ウズベキスタン、カザフスタン、そして、アゼルバイジャン。



今回の旅で巡った7カ国でも、また、さまざまな人に出会った。
そして、どこへ行っても、親切にしてくれる人が必ずいた。
だから、大きなトラブルは、一つもなかった。


困っていると、脇目も振らずに手を差し伸べてくれる。
無条件に、無制限に。
見返りなど、求めようともせずに。
そんな場面を、身をもってなんども経験した。


その度に、
自分だったら、こんなに無条件に人に与えることができるだろうか、
そう、考えさせられた。


私たちは、あまりに複雑で、あまりにわずらわしいことの多い世界で生きているから、
当たり前のことを、当たり前にすることすら難しくなってしまう。


規則だとか、常識だとか、社会的モラルだとか。
そう言ったことも大切かもしれないけれど
そんなことよりももっともっと、大事なことがあるんじゃないか。


誰に対しても同じように、穏やかに接することができたら。
心に余裕を持って、人と関わることができたら。
私たちの世界も、もっと、多くの人にとって
息のしやすい世界になるんじゃないかな。もっともっと。




みんなに教わったこと、いつだって心に留めて生きていたい。




そして、もしも自分の暮らす世界に疲れてしまったり、
もしも大切なことを忘れそうになったら。



また、会いに行きたい。



どこまでも澄みわたった
清らかで美しい大地と、そこに暮らす人々に。





Y.
2017.10




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